マシーナリーオブアイドル 16
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「声が聞こえたの・・・自分の中から・・・」
「声ですか?」
激戦の後、パイプ椅子の上に座り、痛む背中にオペレーターが薬を綿で付けている、
「なんでしょうかね?テレパシー?」
「そんなわけないだろう」
ホワイトボード横のスーツのおっさんがさらに続け、
オペレーターからこちらに視線を向ける
「いつ聞こえたんだ?さっきの戦闘中か?自分の中からってことは外から聞こえたわけではない、ってことでいいのか?」
私は視線も向けず、パイプ椅子でうつむいたまま、
「はい、戦闘中最後の一撃を入れようとしたところで、確かに自分の中にもう一つの意志を感じました」
「ということは・・・」
「多重人格!?」
オペレーターが叫ぶように言う
「他に心当たりは?不意に記憶が無くなったり・・・」
スーツのおっさんの質問に私もどうしたらいいかわからないまま答える、
「記憶が無くなったりはありませんでしたけど、前にいきなり心当たりのないことを口走ったり・・・」
「多重人格か・・・そうか、思いつかなかったな・・・」
スーツのおっさんが顎をさすりつつ何事かを言い、オペレーターに目線を向ける
「オペレーター?神経シンクロマシンニクルの試験パイロットと正式パイロットに多重人格者は?」
「いるわけないでしょう、全員警察内から厳選された身体的、心理的に問題の無い人間・・・あ!」
「そう言うことだな、神経シンクロマシンニクルで新しい試験をしなければならないようだ・・・」
何を言ってるのかなんとなくわかる
「神経シンクロマシンニクルの反応速度が速いのは多重人格があるから?」
「その可能性はある、ああ、その顔は心配しているのだな、自分が用済みになるのではないかと?」
う・・・
スーツのおっさんの指摘に心の隅にあった言葉になってない直感を当てられ呻く
「安心したまえ、多重人格でどんな問題が起こるのかはわからん、君みたいに安心して運用できる人間がいるとは限らんからな、君には働いてもらわねばならん、それに気になることがある」
「気になる事?」
私・・・ではなくオペレーターの声に私を見たままスーツのおっさんは私を見る少し冷徹な表情のまま続ける
「君は記憶が無くなったりしたことは無い、と言ったが、それが本当なら今までなりを潜めていたということだ、それがなぜ、今になって出て来たか、心当たりはあるかね?」
心当たりがない・・・わけではないが・・・
「すみません、話せません・・・確証が無くて・・・」
「確証が無い・・・まあいい、話せるようになったら言ってくれ、臨床心理士を手配しておこう」
「はい・・・」
「すみません!」
いきなりマネージャーが扉を開けて入ってくる
グラサンで分からないが相当焦っている・・・?
「すみません、灼未智を返してもらえませんか?緊急事態で・・・」
「緊急事態!?」
私の声に、全員を見ていたマネージャーの視線が私に向く
「社長が記者会見をする、そこに灼未智も同席してほしいとのことだ、すぐに打ち合わせをしたい」
「どういう了見かな?できれば事情を説明してもらいたいが?」
スーツのおっさんがマネージャーに言い募るが、
マネージャーはスーツのおっさんを向いて冷静に頭を下げ
「すみませんが事態が事態なのでお話しできません、数時間後には記者会見を行いますので、それを見ていただければわかると思います」
「我々警察にも話せない、と、」
「話さなければ罪に問う、ということになるなら話さざるをえませんが、そこまでになるならこちらも話した後、相応の対応を取らせていただきます」
「うむ・・・そこまででは無いな」
と、スーツのおっさんが私を見る
「とっとと行ってきなさい、諸々の手続きはこちらでやっておこう」
「すみません」
マネージャが言って私に近づき私の手を取りがら私を一直線に見据える
「さ、着替えて荷物をまとめてくれ、一刻も早く、だ!」
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