御前教会の真実 ダブモン!!2話/13
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「勇・・・者・・・?」
明らかにシスターが動揺している、
「私達の様に女神が異世界から招いた人たちの事を世間では勇者と呼んでるの、そうよね?」
「そうですけど・・・」
シスターが黙り込み、じっとこちらを見ている、頭がおかしいのだとでも思われたのでは・・・?
「なんだったら、女神様に貰ったデッキケースだってあるし、当人を呼んだって・・・女神様!」
「はいはい」
俺達の側教会の反対側に現れたのは、二頭身ではなく、しっかりと人間体型の女神だ、背中の羽からなにから、とても神々しい・・・
「これは女神様!!」
シスターがあわてて膝を付き、頭を下げる、
その様子に、四葉は得意げに鼻を鳴らし
「どう、これでわかったでしょう」
「はい、勇者様・・・」
「おい、やめろ!!」
思わず、心から大きな声が出ていた、思い切り、四つ葉に詰め寄る
「人に頭を下げさせるなんてやめろ!俺達はそんな快楽は求めてないだろ!人に頭を下げられるたびに人は自分が偉いと錯覚して腐るんだ!頭を下げられないで済むならそういう人生の方がいいんだよ!!それに・・・俺達は勇者になりに来たんじゃなく、願いをかなえるために来たんだろうが!!」
「な・・・何よ・・・そんな大声出さなくたって・・・」
「そうね・・・」
「女神様!」
「女神!」
「女神!?」
女神が唐突につぶやいた言葉に、俺達の視線が集まる
「私も、軽率に出て来すぎだったかしらね、ごめんなさい、動揺させてしまったようで」
「い、いえ、そのような事は・・・」
「今回の事、まわりには内密にしておいてね、それから、彼らに協力するかどうかはあなたの自己判断に任せます、それでは」
不意に、女神はそう言って消え去った
「で、どうするの?シスター?」
「・・・」
黙り込むシスターに、大声をあげ怒鳴る四葉、
「私達に協力するの?」
「・・・要件次第であれば・・・」
ようやく声を絞り出すように、発するシスター、
「なら、教えてもらおうかしら、ブリントっていう神父の事を」
四葉の言葉に、シスターはなぜか瞬時に硬い表情になる背中を一瞬硬直するようにビクっと跳ねあげた
「そ・・・それは・・・」
「でもさ、まだ子供達に勉強教えてる途中だろ?」
「そうだぜ、勉強は大切だ」
「そうだそうだ」
俺の言葉に、兎白と鼓動がようやく会話に参加する、
「急ぎじゃないんなら、後にした方がよくないか?」
「子供達の」
「ためにもね」
「・・・確かにそうね・・・」
「え・・・えっと・・・」
戸惑うようにシスターが顔を上げる
「じゃあ、その代り、墓地がどっちの方にあるのかだけ、教えてもらいましょうか?あっちの方でいいのよね?」
「え・・・ええ・・・」
・・・そして、俺達は、四葉に指し示された教会の右手奥の方に移動する、と、その先に、何かが細かく立っているのが見えた・・・
「何か立ってるなあって思ったらこれ・・・」
「墓標だな」
「墓標だね」
少しのスペースには、いくつもの大きさの違う石が並んでいた、下が直線のアーチ型で形が統一されていて、
その石には中に四角のスペースと同時に上から左右に分けるように横書きで幾つもの並んだ文字、その間にそれぞれ左右に並んだ文字、その下にまたも別の文字が並び彫られておる、
おそらく、上が名前、中程左右が生誕年月日、没年月日、といったところだろう、
文字は・・・流暢なローマ字にだが違うもののようにも見える・・・
「さて、ブリントブリントっと・・・」
四葉がささっと見回し、左手奥の方で視線が止まる
「あれじゃないかしら・・・?」
そちらの方を右手で日を避けながら、目を少し細め注視する
「あった」
そう言って、一番奥の方にある墓の前まで歩いて行き、正面切って墓を見おろし立って唯一ある左上の文字を見る
「ブリント、間違いないわね、やっぱり死んでる・・・」
「位置的に一番目の端・・・です」
「一番目新しいって解釈でいいのかよ?」
「そうなんじゃないの?、もっとも、三年も経ってるんだから、他に死者がいてもおかしくないはずだけど?」
「そのお墓は、家族が私しかいませんから」
聞こえた声に、思わず後ろを振り返る、そこには、先ほどのシスターが立っていた・・・
「いいのか?授業は・・・」
「もう終わりましたよ、ほら」
シスターが教会の入り口の方を見る、思わずつられて見てみると、
そこにはたくさんの大人が教会から出てきて子供達と合流、思い思いの方に散って行く姿が見えた、
大人たちの方は地味目の色合いの簡易な上下の服のみであり袖丈の長さはそれぞれ違っている、
「さて、訊きたいことは何でしょう?」
改めて、シスターが俺達を見据えてきた、
「この墓って、それぞれ大きさ違うけど・・・?」
「入っている人の多さによって違うんですよ、上からその人の名前、生誕、没年月日を左右に入れて、最後にその人の遺言や好きな言葉なんかを入れるんです、血縁だと同じお墓に入れて、墓標に入れるところが無くなったら、新しい大きい石に取り換えて、掘り直してもらうんです」
あ・・・なるほど・・・ん?
「でも、この墓、名前と二つの年月日しか・・・」
「最後、喋れない状態で、遺言すら残せなかったの、身元ははっきりしてたから没年月日と生誕年月日は入れられたんだけど、好きな言葉とかはわからなくて、仕方無く空欄にしたのよ」
「同じ墓に入ってるってことは・・・土葬じゃないわよね、火葬?」
「ええ、この辺りではそうですけど、森の奥の火属性のダブモンさんにお願いして・・・」
「っち、死体を調べられないか・・・」
「死体っつったって、三年もたってりゃ調べらんないです・・・」
四葉の言葉におもわず口入れるウィルピー
「俺たちゃ科学捜査班でもなんでもないっつーの」
「あの・・・死体を調べるって、その人は単なる病気で」
「いいえ、これは殺人事件よ」
「え・・・?」
「は・・・?」
「えっと・・・」
「どうなってんの?」
「これは殺人事件よ、何かの陰謀に巻き込まれてこの人は死んだの、ふふふ・・・あははは・・・・最初に来た時はあっさりスルーしてふもとの街まで下りちゃったけど、こんなところに善行が転がってるなんて・・・」
「いや、殺人事件て言われても、この人は疲労の末病気こじらせて死んだんですよ、風邪か何か、お医者さんもそう言って」
医者が言ってんなら病気で死んだんじゃないのかそれ・・・
「はいはい、ちょっと待ってね」
突如、俺の視界の左下端に二頭身女神が現れた!
「あ、あん」た
その女神が人差し指を口の前に出して黙る様に動きを取る
「しっ!」
思わず息をのむ俺、恐らく、兎白と鼓動も・・・
「いい、落ち着いて聞いてね、今はあなた達四人にしか見えないように調整して出現してるから」
「そうなのか?」
女神の小声に思わず小声になってそちら、教会方向から村の中央通路を望む方に向かいしゃがみだすが、四葉はシスターの方を見上げていて気付いていない、
「そうよ、後、ちょっと説明したくてね、この世界の医療レベルは実はあんまり高くないの」
まぁ、そりゃ電気も通って無さそうだし・・・
「あのね、あなた達の世界にいるような医療の先人や天才はこの世界では生まれてないの、ダブモンに頼っている部分もあるのよ、でも、ダブモンはそれを種族の特性として持ってるから、説明されても人間が再現できるとは限らないわ、例えば・・・カンテーラ、何かいい例え、ある?」
その言葉に俺達の視線が左手側にいたカンテーラに向く、
「そうだな・・・たとえば、俺は人間の思念に近いものを見ることができるが、お前らの技術じゃ、それを見ることはできないだろ?」
「思念って・・・?」
「良星に同感、俺もよくわからない・・・」
「僕も良星兎白と同じ、創作物ではよく聞く言葉だけど・・・」
「ほら、お前らの後ろに死んだ人間の残留思念が・・・」
「うどわっ!」
「わっ!」
「うわわっ!」
思わず後ろに振り返りながら飛び退る俺達が、そこには女性二人が真剣な顔で対峙するのみ、
と、その二人がこちらを向く
「どうしたの?」
「どうしたのかしら?」
「な・・・何でもない」
「な・・・何でもないよ」
「何でもない何でもない・・・」
慌てて両手を振ってごまかす俺達
「そう?」
「そうですか?」
女性二人は不思議顔ながらも再び元に戻る
「だから、お医者さんが・・・」
「あのね、そんなの改めて調べて見なくちゃ・・・」
ったく・・・
「冗談だよ」
な・・・
背後から聞こえた少し呆れた声に思わず振り返る
ぼ・・・墓地でその冗談はきついぞカンテーラ!!
「で・・・他には・・・?」
え、他?え~っと・・・そうだな・・・
「思念て言われても今のじゃわからん・・・」
「思念て具体的には・・・?」
「他のたとえ無いの~?」
「ううん・・・お前らの世界で言う脳波とかそんなんじゃないか?そうであるともいえるしそうでないかもしれない、俺もお前らから何か出てるって感じで見えてるだけでよくはわからんのだがな・・・」
なるほど、これなら伝わらないわけだ・・・
「というわけで、お医者さんも正確な診断を下せるとは限らないの、よく似た症状を取り違えることもあるし、つまりは・・・」
ふむ・・・能力的な限界があるってわけね、死因が違う場合も当然あるわけだ、
「と、いうわけで、じゃね!」
そう言って、女神はキラリッと光の粒を拡散し消え去ってしまった・・・
「あんたたち、何話してたの?」
「うどうわっ!」
「わわわっ!」
「うわわわっ!」
四葉の言葉に思わずひるむ俺達、
「驚いてるところ悪いけど、人同士の間で話し始めたら普通、嫌でも気が付くからね、勝手にいきなりびっくりしたりもしてたし、シスターと話してる間にもあんたらの方気にさせてもらってたから、で、何話してたの?」
「別に・・・」
「そうそう」
「何でもないよ」
こいつに女神の言葉伝えたら否が応でも鼻高々にシスターに何か言いだすに違いない・・・
「後で話すよ」
「うんうん」
「後で後で」
「ふうん、ま、いいわ、そろそろ休みたいしぃ」
休みたいって、そんな時間じゃ・・・
そう思ったが、いつの間か上の空はいつの間にか少し黒染みるほどに赤に染まっていた・・・
「シスター、宿屋とか知ってる?」
「確か、神殿の方に一軒・・・停まれないのでしたら、教会の方に・・・」
「いい、宿でゆっくり休みたいの、教会の規則と食事に縛られるのはごめんだわ、明日また来て調査するわね、あんた達は?」
「とりあえず、宿の方についてってみようかな?」
「俺も、見るだけなら」
「僕も、ま、ダメそうならすぐ戻ればいいし・・・」
「いいわ、なら、貸しということにして、今日の分の宿代だけ出してあげる、その代り、私のためにビシバシ働きなさい」
四葉が言い放った高飛車なセリフに、俺達は辟易してしまったのだった・・・
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