カードゲームライトノベル Wカードフュージョン10話 疾走、荒野の向こう6
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「わぁああああ・・・」
レース場の中に入った途端、僕の耳に観客たちの微かな声援が聞こえてきた、
無論、僕達に向けられたものではない、前の方に並ぶ車たちに向けられた物だろう、
目の前の左右に伸びるレース路、その左手側の方、スタートラインと思われる白線の後ろに、
様々な車が左右交互に並んでいるのだ、
F1カーやスポーツカー、トラックのようなタイプもあり、様々な色や形をした、雑種、多種多様な車が並ぶ、
青と黄のF1レーシングカー、緑色のボディに紫の棘いパーツを所々に付けたクラシッククライシススタイルカー、錆色に近い茶色い色をして後ろに鋼のコンテナを載せたコンボイトラック等、
だが、そのどれもに人が乗っている気配は無い、人が乗る部分があっても、何かの機械があったり、窓が黒く塗りつぶされていて中が見えないようになっていたりする
ざわざわざわ・・・
レース場の観客席が途端にざわつき始めた、見ると、観客たちが一様にカーディンの、いや、ブルー鷹・ネイビーの方を見ている、
観客席は道路に並ぶように大きく一直線に作られており、
その上を薄青の斜めの台が三段重ねになり、さらにその上に日焼け水除けの屋根がある構造になっている、
外から見ると歪曲していたはずだが、目の錯覚だったのだろうか?はたまた構造上の問題でもあったのか?デザインの問題か?右手奥の方にカーブしてる道路があるからそこから入ってここまで来たのだろうか?
そして、その観客たちには人どころか生命体と呼べる存在はだれ一人いないように見える、
街で出会ったロボット達に似ているが、こちらは些かカラフルな物が多く、体も手入れなんかが行き届いたものが多い気がする、
そこからカーディンの走る道路がレース路に平行になって行き、レース路に合流していってその先、
観客席の側にある道路、そこに並ぶ横幅多めのコの字型白線のレースカーの付いていない最前列すぐ後ろに付く、
最前列ではあるが、実際には最後尾である
「見かけない顔だな・・・」
声をかけてきたのは右手前、カーディンのすぐ前の方に並ぶ一台の車、
F1カーとスポーツカーの間ぐらいだろうか、青と黄の、F1カーに見えたがよく見るとF1カーとはかなり違う、フロントウイングが前方のタイヤの前半分を覆い、後輪の方も前半分のみが覆われており、後ろには大型の空力ウイング、
車体は前後に少し細長い感じで、前が青、斜めの分割線後、後ろは黄色く、ウィングには大きくTOPと書かれている、それ以外にもボディ各所にはスポンサーだろうか、様々な文字が並んでいる
文字はともかく、こんな形のミニカーが昔どっかにあったような気がする・・・
「始めまして、私の名前はブルー鷹・ネイビーだ!レースには初めて参加する、これからもよろしくな!」
「ああ、よろしくね、君は僕を楽しませてくれるのかな、新人君」
「は?」
「いやいや、何でもないさ、にしても・・・」
にしても?
「変な名前だ」
だろうな
「ふむ、そう「ハハハハハ・・・!!」
なっ、何だ?
いきなり上空から笑い声がこだまする、上機嫌でどこか真面目さが入り混じった声だが、いったい誰の声だ?
上の方を見ると、そこには羽の付いた騎士が飛んでいた、
といっても、その羽は飛行機の翼を機能的に二つに折り曲げたような翼で、それを背に一組持ち、
その翼を支えに足裏ジェット噴射で飛んでいるといった感じだろうか、どう見ても大きさは人間の大人ほどしかない、
ついでに、体にまとう鎧は西洋の騎士のそれで、頭の上には金属製のとさかが付き、左腰に片刃の剣を備え付けている
「皆の者、有意義なレースの始まりだ!」
あれは、一体・・・どこかで見た気がするんだけど・・・
「ロイヤルメカロード・ガイキシン様です!」
今度は観客席の方から女の人の声、あ!観客席の中央に、上にマイクが二つ乗った白い幕机の実況席がある!
そこには、受付に座っていたロボットが二体、いや、あれは同型機だろうか?
右手の方はその右手にマイクを握り、体のカラーリングは同じでも髪が長くなっていて、体に着たものが青くなっており、
左手の方のは、マイクは握っていないものの身体特徴が右のものに加えて髪の色と目の色が濃い藍色になっている、
どうやら、さっき喋っていたのは右手の方のロボットらしい、
「我らが指導者、メインサーバの守護者、人間の悪行を説き、人間を滅ぼした英雄、ガイキシン様です!」
わぁああああああ・・・!
「人間を滅ぼした、だって!?」
観客が今まで以上に湧く中で、思わず声を上げてしまった
「落ち着くんだ、双歩」
「っつ、でも・・・あ!」
僕の頭に、嫌な予感がよぎる、
「エルドガンは・・・あの人は・・・大丈夫なのか!?」
「恐らくは、大丈夫だろう、わざわざジョーカーはさらって行ったんだ、殺すつもりならその場で殺していた、それなのに手間のかかる方を選んだ、むざむざと殺しはしないだろう」
うっ、確かに、カーディンの言う通りだ、ちょっと心配ではあるけれども、それに・・・
「殺されていたとしても、生死は確認しなきゃいけない」
「そのとおりだ、双歩」
「でも・・・人間の悪行を説いて、人間を滅ぼした指導者っていうなら、そうだ、あれを倒せば、この世界で、人間たちを怖がったり恨んだりしてるロボット達を、どうにか説得できる隙が生まれて、こっちの世界に攻め込まれなくなるんじゃ・・・」
「それはとても短絡的だ」
短絡的・・・言われて気が付いた、その通りだ
「まず、こちらの世界の状況が分からない、指導者を倒しただけで人間との戦いが終わるのか、そういう状況なのか、はたまた、状況が変わってエルドガンの身に危険が及ぶようにならないか、ロボット達は今、人間の事をどう思っているのか、それに・・・」
「それに・・・?」
「あれはおそらく立体映像、ホログラフだ」
「えっ!?」
もう一度ガイキシンの方を見る、今は空中で直立し、観客席に向かい、何かを演説するかのように両手両腕を広げているが・・・
しかし、実際にそこにいるようにしか・・・
「間違いない、視覚センサー以外の何も反応していない、音ももっと上空から出ている」
「上空・・・?」
言われて見上げると、青空が広がり雲が浮かんでいるだけに見えるが・・・
「恐らくは雲の中にスピーカーを紛れ込ませているのだろう、それぐらいの高度だ」
雲の中にスピーカー・・・?あ!
確かに、雲の中に何か白い円状のものが見える、遠くでよくわからないけど・・・
そうか、あの高度から無理やり声を響かせていたから、声が周りにこだましていたのか・・・
と、ガイキシンが突然力強くグッと右手を握り
「皆の者、白熱のレース展開を期待しているぞ!私も影ながら見守っているからな、それでは」
と、ガイキシンが前の方に倒れつつ両足を体育座りの様にまとめて両腕も曲げたまま肩を前方にロールしつつ
頭を下に下げると連動して背中から戦闘機のコックピットのような物が出現して頭の部分に来て
両腕が完全に前方に行くと同時に背中の両翼が左右に大きく開いてガイキシンは軍用戦闘機のように変形
「それでは、さらばだ、ハハハハハ・・・」
いきなり両足下のジェットエンジンをふかすと、そのまま遠くの方まで飛んで行ってしまった・・・
ドォーーーン!
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