カードゲームライトノベル Wカードフュージョン9話 失踪、失意、絶望、5
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて・・・」
今、僕がいるのは大きな道路のそばにある士道病院の五階の廊下、とある扉の前、
そこは、白い天井に白い壁と薄緑色のビニールの様な素材で覆われた廊下が左右に伸び、
目の前の扉は、白く、中央左の方にコの字に角丸く曲がった取っ手が付いた、スライド式の扉だ、
僕はカーディンに頼んでこの病院の前まで送ってもらい、この五〇三の病室の前にまで、入り口と待合室とエレベーターと廊下を経由して歩いて来たというわけだ、
すぅ・・・
少し息を吸い込み声をかける、
「映命さん!入っていい!?」
「どうぞ」
中から少し弱々しい女の子の声が聞こえる、
入っていいという許可は得た、なら、
左手で扉の取っ手を取り、右の方に開ける、
「失礼します」
映命さんに言葉をかけつつ、病室の中に足を踏み入れる、白い病室の中、奥のベットに、少女はいた、
周りが白い壁に覆われ、白い天井には蛍光灯が一つ、奥には鉄枠の窓が並び、窓の左右には白色のカーテンがまとめられていて、
左奥のベットには白いシーツがかけられ、さらにその奥には、上の方に少女の左腕とチューブで繋がる透明な薬剤の入ったビニール袋の吊り下げられたT字型の鉄の棒があり、
奥左側の壁際には、木製の白色の棚が見えた、
部屋に入り、後ろ手右手でドアを閉める、
そして、ベットの上の少女がこちらの方を向いた、
右半身に白い髪を、左半身に黒い髪を持ち、同じ色の瞳をもつ、おっとりした雰囲気の少女で、
今は、青い病院着を着ている
「双歩さん、今日も来てくれたんですね」
「ごめん、迷惑だったかな?」少女は首を横に振る
「いいえ、そんなことありませんわ」
「そう、よかった」
安心し、映命さんに向かって歩く、
と、映命さんが優しいまなざしをこちらに向けてきて、ハッと気が付いたようにベットの反対側を見る、
思わずつられてそちらの方を向くと、そこには、青くて丸いクッションを上に乗せた四つ足の鉄パイプイスがあった、
「いいよ、僕が取る」
急いで右手の方からベットの奥に行き、イスを取って元の場所に戻り、イスを置いてその上に座り、映命さんの方を見る、
すると、映命さんが目をかすかに細めて心配そうな表情をした
「双歩さん、無茶はしてませんか?」
「してない、大丈夫、もう、毎日それ聞いてるじゃない」
「だって、心配なんですもの・・・」
「もう・・・そんなことする必要は無いから・・・」
そう、あの装置が起動した以上は・・・
「そう・・・ですか・・・」
「それよりも、ねぇ、体調はどう?」
映命さんが心配そうな表情から、少し優しげな表情に変わる
「変わりありませんわ」
「そぅ・・・」
心が安らぐ、でも、心の奥の方では、これではいけないと、ざわついている
「いつ頃、その・・・退院できるか、わかる?」思わず、言葉が口を突いて出た
「すいません、まだ・・・」
映命さんが顔を下にうつむかせる、
「そっか、ごめん、変なこと聞いちゃったね」
「主治医の人が、行方をくらませたらしいんです」
「そ、それ・・・大変じゃ・・・」映命さんはかすかに首を横に振った
「いえ、そんな事は・・・前にも何度か似たようなことがありましたし・・・」
「そ・・・そうなんだ・・・」
でも、今回のこれは違う、エルドガンは・・・映命さんの主治医は・・・自分から姿を隠したんじゃない、さらわれたんだ・・・
「映命さん・・・」僕は・・・」どうしたらいいの・・・
だめだ、最後の台詞は、言っちゃいけない、言ったら、映命さんに心配をかけることになる・・・
言ってしまいそうになる、目頭が熱くなる、でも言っちゃいけないんだ・・・
「ごめん、もう遅いし、帰るね・・・」
立ち上がり、イスを右手に持ち、右半身側からベットの奥に移動して椅子を置き、元の場所に戻りつつ、今度は扉の方に向かい
「双歩さん!」思わず立ち止まり振り返る
「何?」
「いえ・・・」映命さんが一瞬うつむく「ただ・・・」そして、僕を真正面に見据える
「今までで、一番の無茶をしそうで・・・怖いんです・・・」
映命さんのその目には、なぜか涙がたまり始めていた、
そんな表情、しちゃいけないよ・・・
精一杯・・・笑い返す・・・
「そんなことあるはずないじゃない!!今、無茶しなくていいって、言ったばっかりでしょ」
「そう・・・ですよね・・・」
映命さんが暗くうつむく、
その姿に、僕は何もかける言葉が思いつかなかった・・・
「じゃ・・・」
小声でつぶやくように言葉を発した後、正面のドアまで歩き、右手でドアの取っ手を持って左手側に開けつつ外の廊下に出、左手後ろ手でドアを閉め、右の方にあるエレベーターに向かって歩き出す、
僕は、どうしたらいい、このまま映命さんが死ぬのを待つのか?
何か方法が、方法があるはずだ、
調べよう、足が壊れてでも、手がすり切れても、言葉が枯れ果てても、僕自身がどうなろうとも、思いつく限りの全てを・・・試す・・・
ピルルルルル!
その時、胸部左のデッキケースが鳴り響いた
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――