Demon'Blacksmith Bustle 魔鍛冶師の喧騒 1
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稲妻がとどろく重暗い雲が渦巻く岩山の上、そこにその城は立っていた、
灰色のレンガで構成された立派な四角の城壁に、三角円錐の屋根持つ幾多の城塔を持つ、
そこの裏口より俺は赤のコートを翻し、火に焼けた肌と銀の髪を闇の気配宿す魔の風になびかせながら入り込む・・・
裏口なのでちゃんとした道などない、いや、あったのかもしれないが、長い年月によって既に消え去っていた・・・
「けっ、山登りのために必要最低限の装備できたのは間違いだったか・・・?」
おかげで麓からここに来るまで必要最低限の鍛冶しかしていない・・・
さらに、手元に残ったのは後ろ腰に据えた短い槌とこぶし大の鉄鉱石のみだ・・・
見ると、石造りの暗い通路が続いている・・・
分かれ道などはとりあえず見当たらない・・・
「裏口と言えば台所にでも通じてると思ったがな・・・」
もっとも、あったとしても人の喰えるもんが置いてるとも限らんが・・・
等と考えつつ歩きだし・・・
と、横にあった朽ちた木の扉の先を見る・・・
腐り切った木のベットや机や椅子があるばかり・・・魔の気配にやられたか・・・?
だが、その中で右の壁に立てかけられた朽ちることなきものを見つけた・・・鉄の棒だ・・・!
破れた布が大きな木の板の上にあったりして、ベットの柱みたいだな・・・
思わず部屋に入り込み、それを取る
錆一つ付いていないが、少しへたってはいるな、ま、こんなとこにあったら当然か・・・何もないよかマシ、
そうして部屋を出て次の部屋探して前進していく・・・
あれ・・・誰かが・・・
筋肉持つ緑色の人型の背中のそれがこちらに振り返る・・・
腐り始めた顔で外側まで生えた不ぞろいの牙持つ口から舌なめずりをする・・・
「へぇ~ゾンデーモンじゃないか」
ゾンデーモン、要は召喚されたけど魔力を供給されずに体が腐り行くデーモンだ
と、そのゾンデーモンが返り切ってこちらを見据え
「おい、お前、誰の許可を得てここに来たんだ?」
「別に許可なんぞ要らんだろこんな廃城、すでに統率能力は無し、周辺には村や町もない、城主が生きてるとも思えん」
「ということは無許可か?盗人猛々しい盗賊もいたもんだ」
「盗賊じゃねぇよ、俺は・・・」
向こうの見開いた右目が大きく丸く不気味にねめつける
「俺は?」
俺は思い切り鉄の棒を突きつけ言ってやる・・・
「俺は・・・魔鍛冶師だ!」
「はーっはっはっ!!」
おいおい、大口空けて何笑ってやがる・・・
「魔鍛冶師だって?鍛冶屋なら聞いたことがあるが、魔鍛冶師ってなんだよ!!」
「魔剣や魔防具なんかの魔力を帯びた武具専門の鍛冶屋だよ、もっとも、俺はその辺の雑魚とは違って、持ち主の命を奪うとか、狂気に落とすとか、世界を呪いつくすようなのが好みでなぁ・・・」
と、ゾンデーモンの大きな右目が俺を見下ろし
「なるほどな・・・道理で生命力と魔力に溢れているわけだ、それなら・・・貴様を喰って力を補充させてもらう!!」
大口空けて向かってきたゾンデーモンの噛みつきを俺はかるーく後ろに一回転飛び避ける、
地面近くで牙同士が空を喰らう音を鳴り響かせ・・・
ゾンデーモンの右目が再度俺を狙う
「おとなしく俺に喰われろぉ!!最近腹が減ってしょうがねぇんだよっ!!」
「やなこった」
哀れ、召喚主から飽きられてもこの世界に固執するからこんなことになるんだ、
いや、勝手にこっちに来たのか、それとも、固執せざるを得ない何らかの理由があるのか?
ま、どうでもいいか!
そう結論付けた矢先、ゾンデーモンがこちらに向かってくる!
「そらよ」
振るう鉄棒がゾンデーモンの頭に当たり、鈍い音を立てる、
ガンッ!
「ぐぉお!」
ひるみ、逃げてくれるかとも思ったが・・・
「ぐわぁあああ!!」
そこからまたも大口を開けて向かってくる・・・
ほんっと腹が減ってるみたいだな・・
そこから棒を左右に幾度も振ってゾンデーモンの肩とかに当てて下がっていく、
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
と、鉄の棒が曲がってきた・・・まずいな・・・
「はーっはっはっはっはっ!どうした!?へたってきたぞ、その鉄の棒!!」
「っち、しゃーねーなー・・・」
俺は確認するよう左手で後ろ腰元より鉄でできた重り部分が真四角で、持ち手の貫通した下部分が短い棘となっている槌を取り出し、デモンストレーションのように軽く振る
うんうん、振った感じ、いつも通りの良い感じだ、これなら久々に鍛冶ができそうだぜ・・・
「おいおい、そんなもん持ってんじゃねーか、それで早く殴りかかって来いよ、返り討ちにしてやるけどな!」
ゾンデーモンの挑発
「何を言ってやがる、俺は鍛冶屋だぞ?こいつは商売道具の鍛冶用ハンマーだ、戦うための道具じゃない」
「へ、そうかよ、それなら、てめぇを殺して俺が武器として使ってやらぁ!!」
またもワンパターンの大口空け、それを俺はすかさずハンマーをしまい、一気に鉄の棒を突き刺した!
「ぐはぁ!」
が、ゾンデーモンは両手で鉄の棒を固く掴み、不気味に両口端を笑みに歪める
「がはは・・・これでてめぇはこの鉄の棒を使えねぇ・・・!」
そんなことお構いなしに、俺は左手で鉄の棒を掴みつつ右手でこいつの体に持っていた鉄鉱石を叩き込む!
「ぐほっ!このぐらい!」
そして、俺は鉄鉱石から手を放しておもむろにハンマーを取る・・・
「がはは・・・はやりそのハンマーで殴・・・る・・・」
が、その目は俺の後ろ上に向けられているようだ、見開かれた右目下が青ざめている
「おい・・・その鉄巨人は誰だ」
「ああこいつか?こいつは鉄鉱石の精霊だよ・・・」
こいつの目には、俺の後ろに俺のハンマーをそのまま大きくして柄を長くしたものを担ぐ筋骨隆々の鉄の巨人が見えてるはずだ、
髭の生えた精悍な顔立ちに丸みを帯びて目ではなく鼻を守る真ん中の鼻頭まで守る構造をした、モヒカンの生えた古代の兜をかぶり
そして腰巻をまきそれらが全て鉄で構成されている・・・
「で、今から俺は仕事をするわけだ」
「し・・・仕事だと・・・この状態と鍛冶の仕事に何の関係がある」
「言ったろ?俺は魔鍛冶師だ、それも、命を奪ったり、狂気に落としたり、世界を呪いつくすようなもんが好きってな」
「や・・・やめろぉおおおおお!!」
「さぁ、仕事開始だぁ!!」
幾度も叩きつけられる二つの槌が、血をまき散らしゾンデーモンを肉塊へと変え、そのまま見る影もない形へと変えていく・・・
「ぐわぁあああああ!!!」
叫び声と鉄鉱石の精霊が消えたころ、俺の左手には一振りの剣が完成していた、
白銀のように輝く見事な両刃の鉄の剣、飾り気が無く、鍔も刃の左右に少し飛び出す程度だ、柄もちゃんと握りやすいようこしらえてある
が、その全体には誰も斬ったことが無いはずなのに、血が滴っていた・・・
そして、俺の服にも返り血が飛び、まわりにもそれは飛び散っていた・・・
俺の体中に髪ごと元より染みついていた血のようなシミが更に濃くなる・・・
「まぁいい、すぐに乾く、血の跡が目立たなくなるためのこの服だしな」
にしてもこの禍々しい魔力・・・ここにあるのか・・・賢者の石は・・・!!
槌と剣を振るって血を払いつつ腰ベルトのホルスターと鞘に収め、赤いコートを揺らし、赤黒い服とズボンと共に、俺は先へと歩き出した・・・
・・・僕はその日見たんだ、この昏い城の中で、希望をもたらしてくれる存在を・・・
それはいとも簡単に奴らの下っ端を倒してしまった、
僕は両の翼を羽ばたかせ、急いでその存在に向かって飛んで行った・・・
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