一人ぼっちの魔王 1
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準備は完了した、侵攻開始だ・・・
遠くに見えるは立派な城下町付きの王城、
ゆるやかに曲がり上がる坂の上に立つそれは、背後に大きな海を抱え持ち、青空を写している、
「おい、そこの怪しいの!」
王城下町前、砂色のレンガ造りの塀門、その左右に立つヘル無し鋼の鎧騎士が私を見咎め
左視の方がゆっくりとした足取りで近づいてくる、その往壮の顔には厳しい表情が浮かぶ
「そのような怪しげな恰好をしている者を王城に入れるわけにはいかん、それにその張り切った魔力、何かの呪詛を使っているのか?残念ながらそんな輩を先に通すわけにはいかないな、もし通りたいなら何か身分を証明するものを提示してもらおうか」私は1番にマナス王国兵士 インガルド・ロウグスを召喚する、コストにはマナス式騎士術・盾起央を指定」
ふむ、どうやら術式はきちんと稼働しているようだ
「おい、聴いているのか!?」
「私は、1番にスケルトン30を召喚、来い」
私の左右の土くれから大量の人骨が這い出してくる、それは一様に右手に簡素な鉄剣を携えている
「な、何だそいつらはっ!?」
私に話しかけてきた騎士、それに、後ろに控えていた若めの黒肌黒髪の騎士も目を見開き驚き、とっさに私の前の騎士が振り返り、叫ぶ
「おい!早く門の裏で控えてる奴らに報告しろ、その後、城下町の人々に避難を叫びつつ城の方に報告に行け!俺はここでこいつらを抑える!」
「わ、わかりました!」
門の騎士の方が素早く門の中に入って行き、前の騎士が門の方に走り、私の方に立ちはだかる
「ここから先は通さんっ!」
なるほど、骨たちに囲まれないよう、門の中で戦う戦術を選んだか、賢明な判断だ、だが、
この術の前ではそんな小細工は通用しない
「行け」
右人差し指を突きつけ言い放った命令に、一体のスケルトンが騎士に向かって行く
大上段に振りかぶり放たれた剣の一撃
「何の!」
左手に備えた盾でこれを難なく受ける騎士、下の方が長く膨らんだ六角形のような形の鉄盾だ、
さらに、左腰にたずさえた剣を右手で引き抜いて突き返す、
骨の方は突き飛ばされ、地面にぶつかりバラバラに
「よし!」
「だらしがない、」
右手を思い切り前に振り上げ指示を出す
「次だ」
別のスケルトンの一体が騎士に向かって行く、
やはり、ただ魔力を注ぎ込んだだけの骨人形ではこれが限界か・・・
「ん、そいつは・・・その右目は・・・」
と、騎士がスケルトンの顔を見て、何かに気が付いたように目を見開く、が、そんなことはどうでもよい
今度はスケルトンが剣を右肋骨の方からすくい上げる様に打ちこむ、
しかし、騎士は読んでいたかのように左手の盾を下に向け、防御、剣を受け止める
「まさか、この太刀筋は・・・」
ふむ、やはりこのままだと同じことの繰り返しか・・・
右手ごと人差し指の先を上に向け、精神を集中させ、小さな火の玉を生み出す、指の直径程も無い、小さな小さな火の玉・・・
「私は手札から使役式・ファイヤースウェイを発動、マナス王国兵士 インガルド・ロウグスを墓地に送る」
「貴様、今俺の名をっ!?」
「魔性の小炎よ、消滅へと導け、使役式・ファイヤースウェイ、逝け」
手を振り降ろし放った火の玉は骨の頭上を通り、騎士に迫って行く
「うぉおおおおお!」俺はマナス王国兵士 インガルド・ロウグスの効果を発動、使役式・ファイヤースウェイを相殺する」
騎士は防御状態から剣持つ拳で無理矢理骨を吹き飛ばし盾を火の玉に向け
大爆発
辺りを爆炎が焦がすが、それが晴れたところ、しっかり騎士は生き残っていた
「ぜぇはぁ、ぜぇはぁ・・・」
が、盾は融解しかかり、その息は上がっている、もう向こうに発動できるカードも無い、
さて・・・
右手にカードを出現させ、思い切り前に出して宣言してやる
「私は使役式・オーバーマジックワーカー・序を発動し、スケルトン30の魔力を三千上げる、幾多の暗黒の闘士よ、その力を増せ、オーバーマジックワーカー・序」
カードの魔力が人骨達に向かって行き、人骨が魔力をまとい、その口が狂ったように動き出す
カタカタ・・・カタカタ・・・
「ま・・・待て、待ってくれ・・・」
骨達の歯がぶつかり合い狂騒曲を上げる中で、騎士の目が丸く開かれ、瞳孔が狭まり、焦燥の表情を浮かべる
「なぜだ、なぜ貴様は俺の名を知っている!?」
「なぜも何も、そのぐらい、私の術をもってすればたやすいことだ」
「なに!?」
「さて、とっとと貴様も先輩騎士の元に送ってやろう、なに、すぐに貴様の妻と娘も逝くことになる」
「な・・・きさまぁああああ!!」
カードが腰元のケースに戻った右手を前に出し宣言
「行け」
した一言により、
再生していくスケルトンを先頭に、一斉に騎士に骨たちが向かって行く
「このぉ!」
騎士が剣を大きく横ぶり一閃、スケルトンたちを吹き飛ばす、
だが、その骨たちの背後から跳躍してきた第二陣の剣の一つが後頭部にヒットする
「がっ」
鈍い刀身は鈍い打撃音を立て、騎士は昏倒、そこに幾多の剣が振り降ろされ、
真っ赤に染まり動かなくなった騎士は骨たちによって門から退けられ、骨たちが私に道を譲るように左右に並ぶ
「よくやったぞお前達、ふはははは・・・」
さながら王の帰還の様に堂々と、私は門から奥へと入って行く・・・
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