星間戦争編 青星民の涙 2
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ん・・・?
目を開いてみると、白い天井があった、ここは・・・
「オズマレ!」
いきなり抱きついてきたのは、黒い髪の女性、
長く波打つ長髪に黒い瞳を持つ、そうだ、こいつは、オーディ・ネリー、俺の・・・
「私の事を、覚えてる?」
「憶えてるに決まっているだろう?」
恋人だ・・・
思わず真正面からその美しい顔を見据え、見つめあ・・・い・・・?
なんだ、この視界だけじゃない様々な違和感・・・?
「それじゃあ、私の肌のぬくもりはわかる?」
わかるに決まって・・・決まって・・・あれ、こいつは・・・こんなに冷たかったか・・・?
氷のようとはいかないまでも、冷水の様に冷たい・・・?
それに、顔がぼやけて見える、オーディはもっと、はっきりとした目鼻立ちだったはず、そこそこ近所でも評判の美人、とするのは、恋人のひいき目だろうか・・・?
そうだ、それから、匂いも・・・何も匂わない・・・!人がそばにいるはずなのに!?
「ああ、その顔、やはり、違和感があるのね・・・?」
どうなってる、俺の体に、何が起こっているんだ・・・?
「あなたは・・・サイボーグになったのよ・・・」
・・・言っている意味が解らない・・・
「頭の半分が吹き飛んで、その分を電子頭脳で補っているの・・・」
「なんだと・・・?」
「そこから先は我々がお話しましょう」
右手先の壁にあった白いスライドドアを開いて出てきたのは二人の、前開きの白衣を着た人間、
前方にいる一人は初老の男性で眼鏡をかけており、黒い髪を後ろに撫でつけている、
服装は緑のネクタイに長ズボンに白いワイシャツの他、至って真面目な表情がこの人の人となりを表現している、
対して、後方左のもう一人は、まだ20代後半と言っていいだろう女性、
赤いシャツに長い黒のタイトスカート、
上にまとめた豊かな黒髪にオニキスのような黒い瞳、黒肌の堀の深い顔立ちで、強い知性を感じさせる、
「あんたたちは・・・」俺が慟哭してる間に、二人が近づいてくる
「初めまして、オズマレ・ドルチェ、私はシン・タクマ、君の現在の主治医であり、君に執刀を行った」
「そして、私が君のこれからの主治医となるメタリ・フィキラ、その電子頭脳の開発主任よ、医者の免許も持っているから、今後の経過を見守らせてもらうわ」
「一体・・・俺の身に何が起こったんだ・・・」二人が俺の前で立ち止まり、
・・・話された内容というのはこうだ・・・
「まず、君は人型兵器の内部でビームで撃ちぬかれたが、その際、救命ポッドで何とか脱出したらしいのだ、少なくとも私はそう聞いている」
「救命ポッドで・・・?」
確かに、うちの救命ポッドは高性能ともっぱらの評判だったが・・・
「簡易治療機能の入った救命ポッドで何とか一命は取り留めた、しかし、脳が半分失われている以上、それも数時間しか持たなかった・・・」
・・・
「そこで、君が回収された第六小惑星帯付近の宇宙ステーションに勤務していた私が緊急オペを敢行することとなった、そこの電子頭脳開発者の女性と一緒にね」
「ここからは私が話すわ」
今度はメタリ・フィキラが俺の前に移動した、
「さっき、電子頭脳がと言っていたな、それ関連か?」
「ええ、その通り、私は電子頭脳の性能のテストのための被験者を求め、軍の施設を回って、電子頭脳を置いて回っていたの、もっとも、交通事故の方が需要がありそうだったから、最前線近くに一、二個置いてある程度だけど・・・」
「なるほど、それで運悪く、いや、運良く俺が性能テストに選ばれたってわけね」
「そのとおりだ、オズマレ君、私は衛星回線を通じて彼女とコンタクトを取りつつ、ようやく電子頭脳の取り付けに成功したのだ」
「こちらとしても、この装置を人道的な方法で使用できるチャンスだったから、思う存分使わせてもらったわ、なんせ、老人向けの補助電子頭脳は大量に求められてくるけど、このように欠けた脳の代わりになるようなタイプは需要皆無だからね、名誉ある人体実験第一号に選ばれたのよ」
「はっ、それはそれは、出来れば、永遠に選ばれなかった方が良かったかもしれんね」
「どうやら、ジョークはとどこおりなく話せるようだな、」
シン・タクマの勢いのあるメタリ・フィキラへの顔振りに、
「メタリ君」
「その通りですね、」メタリ・フィキラも同じように向いて答える「シン・タクマ、」
何なんだこいつら・・・
そんなふうに呆れている間にも、二人は俺の方に顔を戻す
「ともかく、何か異常があれば言ってちょうだい、すぐにどうにかするわ、とりあえずは感覚器系の調整が必要なようだけど・・・」
「私もこちらに移り、しばらくここで勤務させてもらおう、君に執刀した責任もあるしな、何より久々に地上勤務に移りたいと思っていたところだ」
「ああ、後、それから・・・」
「それから・・・何だ?」
「脳が壊されたことで、失った記憶はどうあがいても戻らないから、そのつもりで」
事ここにきて、ようやく俺は思い出せないことに気付いた、
・・・両親の顔と名前が、まったく持って思い出せなくなっていたのだ・・・
そして、しばらく・・・時間が過ぎて行き、色々な人が来て会話をしていく・・・
「この病院は?」「母星の病院よ」「第六小惑星帯にあった基地と一緒に戦っていた仲間は?」「全滅したと、基地も占拠されたそうよ」「オズマレ先輩、生きていてよかったです」「お前は・・・誰だ?」「えっ!?」「冗談だよ、アッガー、軍学校の後輩だろ、もっとも、それ以外何も覚えてないがな・・・」「・・・」「これでどうかしら?」「目の方は治ってきてるな、次の視力検査はいい結果が出せるだろう、温度感覚はもう少し熱さに敏感だったかな?」「わかったわ、調整してみる」
「退院、おめでとう、オズマレ」
「ありがとう、オーディ」
病院の入り口、緑の十字が掲げられた四角い病院に入り口は、後ろの硝子の自動窓の外でコンクリートの板を両の柱で支える構造となっている、
そして、その先端、俺の前のそこにいて先ほどの会話を交わしたのは、クリーム色の長袖の薄い上着に夏のような白の肩出しワンピースを着たオーディだ、しかし、ここで俺の戦いが終わるわけではない、戦争は今だに続いている、病院のラジオからも伝えられ、戦死者は後を立たない、聞き覚えのある名前をいくつも聞いた、大きな戦いに敗れた直後なのだから、当然と言えば当然だが・・・、早い内に、軍部に顔を出さねばなるまい・・・
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