バハムートの焼肉@オイレンのラノベ置き場・双札

月から金、土はときどきを目標に私が書いたラノベを置いていきます。

水晶の島のデモの末路 ダブモン!!9話06

水晶の島のデモの末路 ダブモン!!9話/06
 
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 「お疲れ様!これ、駄賃ね!」
 「ありがとうございます!」
 そう言いつつ、目の前の筋肉質で日焼けした半袖短パンの薄着のお兄さんからお金を受け取る、
 お兄さんはさらに笑顔を浮かべたまま
 「いやいや、空が飛べるダブモン達がいて助かったよ、二階に一気に物運んでもらえたし、その分うちのダブモンも楽できたし、時間も短縮できたし・・・」
 「俺もこいつらには助けられてばかりですから!」
 「だな・・・」
 「このぐらい・・・相棒のためなら!」
 「ま、運ぶだけだからな!」
 俺の言葉にカンテーラ、フリィジア、イグリードが反応を返し
 「いやいや、ありがとう、また機会があったら頼むよ、じゃあな!」
 そう言って筋肉質の男は振り返ろうとする、俺は慌てて
 「あ・・・っちょ、俺達そろそろ!ここから・・・」
 男は振り返るのをやめ、俺たちを再度見据え、歯を見せる明るい笑顔になりつつ
 「ああ、そうかい、それでもま、縁があったらよろしくな!」
 そう言って振り返り直し、去って行った・・・そして、俺達も踵を返し、教会に戻って行く・・・
 そんな中で俺の口が自然と軽口をたたく
 「仕事終了!」
 「簡単な引越しの手伝いだったな!」
 「距離も近いからみんなでやればすぐだったね!」
 「ま、疲れちゃったけどね」
 「この後、今日はもう仕事無かったな・・・」
 「いやぁん!相棒とゆっくりできるわ!」
 「お前は本当にゆっくりするだけなのか・・・?」
 「あはは・・・です」
 そんなこんなで、街の中を歩いていく、
 一応は白い石で舗装された街並み、この辺りは石造りだが、一歩裏通りに出ただけで散発的に家々が並ぶような土地、
 兵士たちもあまり忙しくしてないし、駄賃もしっかりくれるし・・・
 「良い人たちよね、ここの人達・・・」
 「だな・・・」
 「うん・・・」
 「そうだね・・・」
 四葉の言葉に同意する俺たち三人、
 数日ほどいただけだが、仕事場では他よりもずっと親切にしてもらえるし、何よりみんな優しいし・・・けど・・・
 「そろそろお金もたまったし・・・俺達も先に進まないとな!」
 「ああ」
 「だね!」
 「でも、」
 四葉がなぜか俺たちの前に出てくる、自信に満ちた挑発的な笑顔で
 「明日一日ぐらい好きに過ごしてもいいんじゃない?」
 確かに四葉の言う通りかもしれないな!
 「じゃあ、明後日に出発な、来た時のあの橋を通って・・・」
 と、屋台増える大通りの左側に、人とちょこちょこダブモンが列をなして入り出て行く建物が見えた
 「あれって・・・?」
 「公民館だよな、真っ白で四角い建物・・・」
 「何してるんだろ・・・?」
 「あ、あれ・・・」
 公民館の入り口を見るレファンがいたのを発見し、そこで公民館より出てきた神父を出迎えているのが見えた、
 神父と言っても熱いせいかかなりラフな格好で、鉄の羽ロザリオを首にかけた、この島に来た時、入口でレファンが声をかけたことも、あったっけ・・・
 俺は同じ歩調のまま近づき、立ち止まりつつ思わず声をかけた
 「レファン、神父さん、こんなとこで何してるんだよ?」
 二人が俺たちの方を見る
 「ああ、皆さん・・・」
 「ああ、君達か、何、今投票を済ませてきたところだよ」
 「投票・・・?」
 選挙か?それでここにたくさんの人が集まってたのか・・・
 「今回は三権総選挙だったからね、大統領を決めるのみならず、法案院と、法決院の半分、最高裁判官の審査まであって、いやはや、情報を集めるのに苦労したよ・・・」
 「四つもか?」
 兎白が視線をレファンの方に向けながら
 「レファンも行ったのか?」
 問いかける
 「いえいえ、私は外国人ですからね、それに、この国の人であっても投票権のある年齢ではありませんから」
 「じゃあなんでここにいるの?」
 今度は鼓動だ
 「単に屋台に惹かれただけですよ」
 笑顔のまま答えるレファン
 そういえば・・・
 周りを見渡すと、いつもは別の場所で商売やってるのがこっちに移ってきてる感じがするな・・・
 肉や魚を串にさして出す屋台や
 フルーツを砕いたりしてジュースにして出す屋台など・・・
 「いつもは閑散としていても、今日ばかりは皆がここに集うからね、邪魔にならない程度で国が許可を出しているんだ」
 神父が付けたしてくれた
 なるほど・・・しかし・・・
 「そういや、俺達も大人になったら選挙に行かなきゃいけないのか・・・」
 「おや、君たちの国も民主主義かい?ずいぶん珍しいな・・・血の雨は降らなかったかい?」
 俺は頭の中でいろいろ思い出しながら神父の方に向き直り
 「いや、どうだろうな・・・?」
 心なしか、神父の顔から少し力が抜け、陰りが見える
 「この国も二〇年前までは王政だった、契機が訪れたのはビィジョンブックの開発だ」
 「それが・・・どうして?」
 兎白の疑問に、神父がそちらに目線を合わせる
 「マジックブックを元にしたビィジョンブック開発による様々な情報の共有は、いつしか国民の知らなかった王政と貴族たちの多量の悪政を暴き立て、武力蜂起へと駆り立てた、当時は子供だったが、あの時のことはよく覚えているよ・・・」
 そんな事があったのか・・・
 「その時に王族と貴族は軒並み処刑されてしまった、君達は若いから知らないだけかもしれないが、君たちの国でも似たようなことがあったのかもしれない、ま、その時のことを覚えているから、こうしてどうしたって足が向くのかもしれないな、もっとも、今回は色々と大変だったが・・・」
 「大変?」
 鼓動の相槌に神父が今度は鼓動の方を向く
 「教会の神父などやっていると、神父様は誰に投票するんですかと訊かれるのだよ、血の雨が起こった後に生まれた世代で投票に行く人が現れ始めてね、それ含め、どうすればいいのかわからない人もいるのだ」
 「答えたのか?」
 俺は思わず口を出していた神父は前例通りに俺を見る
 「まさか、答えると宗教からの干渉だの、内政干渉だのとうるさいからね、一切答えないようにしているんだ、だが、神父である前に私もこの国の国民、一票だけは投じておこうと思ってね」
 へぇ・・・
 「いくらこの国含めた多数の国で国教となっているような女神様への信仰でも、宗教は宗教、総本山も国外ですからね、女神様の神殿ははるかに南だし、教皇庁も遠い、結果、宗教からの干渉のみならず、国外からの干渉だとも言われる」
 なるほど・・・
 「だが、女神様はおっしゃっているぞ、選挙に行き、必ず一票を投票しましょうとな!」
 陰りを吹き飛ばす力の入った自信のある顔、
 だが、あの女神がそんなことを・・・
 「言った覚えはないけどね・・・」
 いきなり背後から聞こえた声に、俺は背筋がピンと真っ直ぐに張るが、神父とレファンがいる以上、振り返るわけにもいかない、
 「こっちの世界じゃ入って来て日が浅いから、この手の事に言及した覚えはないわ」
 日が浅いってもう二〇年ぐらいたってるって感じの会話だったが・・・
 っていうか、今回ずいぶん介入してくるな・・・
 と、自信のある顔のまま口を開け笑顔を見せる神父、
 「さ、君達も大人になったら選挙に行こう!」
 ええと・・・
 「それはどうなんだ?行かなきゃいけないのか?」
 「・・・行かなきゃいけないんじゃないでしょ」
 四葉
 聞こえた左後ろの方を見ると、むやみやたらと目に力の入った真剣な表情をしたよつばが、だが、口元は少し口角の上がった笑顔に見える・・・
 そして、その真剣な目が俺たちを捉え
 「きちんと調べてから行けば、行ったら行った分だけ自分に都合のいい世の中が作れるのよ、なら行かない手はないわ、法律やルールを作るってそういう事でしょ?」
 「ははは、そういう考え方もあるかもしれないな!」
 神父が笑い飛ばした、いいのか、そんなこと言って、この神父も、そして、四葉も・・・
 「それにしてもさ・・・」
 「そういえば・・・」
 兎白と鼓動がつぶやいて行列の方を見る
 何か違和感でも・・・思わず俺も行列を見て・・・あ・・・
 「ダブモンがいる・・・か・・・?」
 哺乳類、爬虫類、両生類、鳥、魚、虫、様々なダブモンたちが人間と共に列に並んでいるのだ・・・
 「もちろん、ダブモンにも投票権があるぞ!」
 本当かよ・・・
 「この国に籍を置いて一定以上の年数が経てばな、ちゃんと住所に票が届けられる、森の中だろうが海の中だろうがな、子供は別だ、もっとも、こちらもいろいろと問題が起こっていてな」
 「問題?」
 そう言いながら解説してくれてる神父の方に再度目を向ける俺
 その目は少し力なく悩んでいるように見えた
 「最近、票の割合が5%にまで迫ってきていてな・・・」
 「5%?それだったら問題無いんじゃね?」
 「5%と言っても20人に1人だ、無視は出来ん、それから、被選挙権が無い等もだな・・・」
 「へぇ~」
 「我が国の法整備もまだまだやらなければならんという事だ・・・」
 そう言いながらも平時の表情に戻る神父、
 「さ、今日も教会に泊まるのかな?」
 「はい」「そうです」「お願いします」
 「なに、そういう人のための教会だ」
 あ!
 「でも、明後日には発とうと・・・」
 「そうか、なら、それまでしっかり泊まって行ってくれ」
 だが、その翌日、俺達はビィジョンブックで知ることになる
 「大規模デモ・・・?」
 
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