バハムートの焼肉@オイレンのラノベ置き場・双札

月から金、土はときどきを目標に私が書いたラノベを置いていきます。

大迷作、酔いどれフェアリー/2


大迷作、酔いどれフェアリー 2
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水曜の昼
 
 「で、売れるのかね?」
 編集長からいきなり出た言葉がこれである・・・
 灰色の角々のデスクを突き合わせて二列に並べた編集室。
 我が足あと出版はこの大きな道路前の中ビルの三階を占拠して存在しており、
 ちょび髭眼鏡の編集長の後ろにはちょうど隣のビルの壁が見えている、
 「妄想を形にするのはいいが、それをどう商売にするかが大事なんだ」
 ううむ・・・痛い言葉だ・・・
 着なれた紺スーツの下で手を強く握る
 その間にも編集長が僕の出した企画書を手にもってまじまじと見る
 「これではターゲット層が明確でないだろう、」企画書を置き今度は僕の顔を見据えてきた「誰に対して売るかをきちんと定義してきなさい、その為に、もう一度企画を洗い直してきなさい、それか、校正の手伝いに戻りなさい」
 僕は、仕方無く、振り返り、右手奥中ほどにある自分の席に戻り、座る。
 「いやー、もうちょっと考えた方がよかったわねー、尾根君」
 目の前から田南、加々理 田南(かがり たな)さんが話しかけてくる
 少し盛り上がった茶髪短髪の女性で、活発ではあるが大人の女性の落ち着きも持つ、ごく普通の女性という印象だ、僕の同期で、今日は黄色いシャツと赤いスーツに身を包んでいる、
 「尾根君がオタ商売やるのかと思ってびっくりしたよ私は」
 「オタ商売、ですか?」
 「そういう方向性もあるってことよ、ほら、あの編集長にターゲット層絞れって言われたんでしょ、誰に向かって売るのか決めたら、自然と商品の方向性も定まってくると思うよ?」
 「ええっとですね・・・」
 「とりあえず、誰に売るかを決めないと・・・」
 オタ商売・・・すくなくとも、そう言った方向性は僕の頭の中にはない・・・
 出してしまえば方向性も定まるかとも思っていたが、世の中そう簡単にはいかないようだ・・・
 濃緑のシートの上に厚いビニール敷かれた灰色の机を見降ろしながら思わず悩む・・・
 「オタ商売・・・ではないと思います、」不意に自分の口から考えが漏れ出た「とすると、これを買ってくれそうなのは子供達か・・・でも、安い物にはしたくない・・・」
 「そうなってくると、装丁を豪華にして・・・?でも、子供向けでお高めだと採算取れるかなぁ・・・?」
 「採算を取る方向性なら・・・」そうだ、会話してくるうちに考えが固まってくる・・・!「日本だけに売るのではなく、ある程度海外も意識して・・・」
 「それならありかもしれないけど・・・」
 「それなら格調高くすれば、子供以外にも・・・だとするなら、シナリオ仕立てで、絵も、うまい具合に個性的な方が・・・」
 「そうなるとイラストレーターや文書きだけじゃなく、漫画家の方にも声をかけた方がいいかも・・・」
 田南さんの言葉に思わずハッと気が付いたように頭が上がり、声をかける、
 「その辺り、協力してくれそうな人いますか?」
 立てた書類の向こうに見える田南さんの顔が少しけだる気楽げに力が抜かれる
 「漫画の編集局の方に掛け合ってみれば?」
 「後でそうして見ます、しかし、企画が通っていない段階ということは伝えねば、問題回避のため」
 「だよね」
 僕は思わず腰を上げる
 ガタッ!
 「うおっ!?」
 いきなりの動作と椅子の音のせいか、田南さんがのけぞった、がそんなことはお構いではない、僕は田南さんの顔を真摯に見すえ口をひらく
 「僕今から行って、話しをしてみます」
 「了解、行っといで、ね、ルリーちゃん」
 「ふぁあ~、なぁにぃ~?」
 そう言って、僕の足元の鞄の中から、あくびをしながら昨日酒を飲み過ぎた妖精が、顔を上げたのだった・・・
 しかし、僕の顔を見てその妖精は
 「・・・用がないなら・・・もうちょっと寝るわ・・・」
 
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